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【Aperitif de Cinema】「映画」という名のメイン・ディッシュをより深く味わうために、“科学フレーバー”の食前酒はいかが?

文/佐保 圭

今宵の逸品

M:i:III

「スパイ大作戦」をトム・クルーズ主演で映画化した人気シリーズ第3弾!
ドイツ、イタリア、米国、中国と世界を股に掛けたアクション巨編!!

 スパイを引退して現場を離れ、教官となった主人公のもとに、かつての教え子の救出ミッションがもたらされる。敵は世界を舞台に暗躍する謎の武器商人。一旦は救出に成功するも、結局、教え子は殺され、さらには新妻までもが誘拐され、窮地に立たされた主人公の逆襲が始まる……脇役を演技派俳優で固め、アクションだけでなく、私生活におけるスパイの苦悩まで描かれた人間ドラマとしても楽しめる意欲作。

■原題:M:i:III
■2006年/アメリカ映画/126分
■監督:J.J.エイブラムズ
■主演:トム・クルーズ

DVD
M:i:III
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今宵の1杯

交通渋滞を“フェロモン”で解消

 今度の“ミッション・インポッシブル”では、スパイの私生活風景も出てくるのだが、当然、仕事の話は御法度。ゆえに主人公も婚約者の知人から仕事を訊ねられて「交通局勤務」と嘘をつく。さらに「どんな内容?」と問われると、高速道路で1台がブレーキを踏んだ際、その影響が波紋状に広がって起こす渋滞を例に挙げ、素人には理解不能なほど高度な分析に携わっている、と相手を煙に巻いてしまう。「交通はある意味生き物だ」なんて、流石に超一流のスパイ。うまいこと言う。

 そういえば、科学技術の進んだ現在、交通渋滞の研究はどこまで発達しているのか?
 調べてみると「まさに生き物!」と思わせられる最新渋滞予測システムがあった。
 その名も「フェロモンモデルによる渋滞予測」。
 国立情報学研究所の本位田真一教授を中心にデンソーアイティーラボラトリ、早稲田大学の共同研究として、2003年6月にスタートした産学連携プロジェクトだ。

 ハチはカマキリなどの天敵に遭遇すると「ここは危険だ!」と体内から化学物質のフェロモンを出す。その直後、同じ場所を通りがかったハチは、残されたフェロモンの匂いを嗅ぐと「どうもこのあたりは危ないらしい」と察知して迂回し、未然に危機回避できる。やがて危険な対象物が去ると、別のハチのフェロモンが追加されることもなく、振りまかれたフェロモンは次第に蒸発し、やがては消え、また、安全な場所として認識される。
 この「ハチ」を「車」に、「残留フェロモンの範囲と濃度」を「渋滞の範囲と程度」に置き換えて考案されたことから「フェロモンモデル」と命名された。

 本位田教授が「車載センサと通信デバイスの普及・発達があって初めて実現可能になりました」と説明するように、フェロモンモデルでは、これまでにない渋滞状況の情報収集・伝達・予測法が採用されている。
 情報収集は各車が独自に自動的に行う。車載センサで速度、ブレーキ回数、車間距離などの情報を収集し、各車でフェロモン(データ)化する。このフェロモン情報は、ワイヤレス・ランにより、センターを通さず、複数の車両間で直接交換される。その情報をカーナビで処理することで、各車は渋滞地域を把握するのである。
 最大の特徴が「渋滞情報のフェロモンを気体とみなすこと」。気体は時間とともに拡散するので、交差点などではフェロモンも合流し、広範囲かつ高濃度のフェロモン地帯が形成される。各車のカーナビ上で気体の動きを計算することで、これから混むであろう地域の予測が可能となるのだ。

 これまでの交通情報は、道路に設置されたセンサから情報をセンターに集め、統計的方法で渋滞を予測し、車に伝えてきた。ところが、フェロモンモデルは過去の莫大な統計的データとの照合が不要。情報が複数基地局を経由することもないので、情報のタイムラグは2分の1~3分の1に短縮。コンピュータで吉祥寺・三鷹地域のシミュレートし、その結果を評価したところ、「フェロモンモデルが予測する渋滞回避経路は、従来技術が割り出した経路よりも、目的地までの到達時間を約6%短縮、また複数の候補の中から最短経路を選ぶ確率を約15%も向上させました」と本位田教授は胸を張った。「将来は『狭い道はイヤ』とか『タクシーが嫌い』などのフェロモンも設定できますので、自分の好みの道を選べるようになります」……ということは、いつかは「小刻みなブレーキングと意味深な車間詰めで〈ちょい悪オヤジ〉フェロモンを放出するドライブテクニックを身につけよう!」なんてHow to 本が出るかも…………出ないか。

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